母親失格

「ママ、犬を飼いたいよ。飼ってよ~」

「ダメよ」

「なんで?」

「じゃあ逆に聞くけど、タカシはなんで犬を飼いたいの?」

「え?なんでって…」

「なんでなの?理由もなく飼うわけにはいきません」

「え~いやだよ、飼ってよ。飼って飼って!」

「もう!ダダをこねるんじゃありません!」

「飼って飼って飼って飼って~!飼ってくれるまで続けるからね!

 飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って

 飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って

 飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って

 飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って

「やめなさい!…もう、やめなさい。わかりました。犬を飼ってもいいわ」

「えー本当!?」

「ただし、条件があります。私の家に置いておくのはタカシか犬のどちらか片方だけ」

「え?何?」

「犬を飼ってもいいわ。でも、うちにはそんなにお金がないの。

 だから、その代わり、タカシにはこの家を出て行ってもらう。

 ママ、タカシが『飼って飼って』ってダダこねてる間にちょっと考えてたの。

 そういえば、なんで私はタカシを家に置いてるんだろう、って。

 考えたけど、理由なんてなかったわ。

 私の膣…膣ってタカシにはまだわからないかもしれないわね。

 とにかく、タカシは私の中から産まれてきたの。これは事実。

 それで、それ以来、成り行きで…成り行きって言い方は悪いかもしれないわね。

 …惰性、かしら。うん。この言葉がぴったり。…そう、惰性でここまで育ててきたわ。

 …ごめんなさい、ちょっと話が早いかしら。ここまでで何か思うところある?」

「さっきから何言ってるの?わからないよ」

「そうね。タカシにはまだ早いかもしれないわね。

 じゃあ、ここからはiPhoneで録音しておくからまた後で聞いてね。

 あ、あ。録音できてるみたいね。じゃあ続けます。もうタカシは聞かなくていいわよ。

 向こうに行って、今一度、犬を飼うかどうか考えてて。あとで答えを聞くから。

 …私は、タカシを育てる理由がわからなくなりました。

 いえ、正確に言うと、ずっとわかっていませんでした。

 自分の膣から出てきたものを、そのまま無思考で受け入れてここまで育ててきました。

 自分の膣から出てきたというだけで、育てる理由になるのでしょうか。

 タカシをこのまま育てるのも、新しく犬を飼うのも、同じことにしか思えません。

 私にはもう、わかりません。タカシを育てることに何か見返りがあれば…

 いえ、見返りなんて、子どもに求めるものじゃないんですね。

 母親失格です。…母親。そう、私は母親なんですね。私はタカシの母親でした。

 タカシなら、何か答えを持ってるかもしれない。タカシ!ちょっと来て!」

「ママ、何?」

「タカシ、それでどうするか決めたの?」

「何?」

「さっきまで話してたでしょ。犬を飼うかどうかよ」

「犬を飼って、僕もここにいる」

「さっき話したでしょ。もう家にはあなたか犬のどちらかしか置けないの」

「犬の面倒は僕が見るよ。エサ代も僕が持つ」

「エサ代って、あなたどうするの?」

「働くよ。働いてお金を稼ぐよ。それで、お金をお家にも入れるから僕も置いてよ」

「そうね、あなたもう38歳になるんだからちゃんと働いて家にお金を入れなさい!

 毎日ぐーたらして犬飼いたいとか寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよバーカ!!!

 働け!とっとと働けよ!はい、明日の予定は!?」

Gガンダムを見る」

「ちげぇよハロワ行けハロワ!!!!!!!!!!」